第3回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)における日本の敗戦について ~敗戦の要因とWBCを終えてその先に見えたもの~

 2013年3月18日、第三回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の準決勝にて日本は、プエルトリコに敗れて三連覇の夢は、ついに叶わなかった。今般のWBCは、序盤、日本の参加の有無を巡って一連の騒動があり問題となっていた。しかし、日本が参加を表明して以来、着々と進むWBC代表監督人事の中で山本浩二氏が選出され、その後、参加選手の人選が開始された頃には、既に今回のWBCにおける日本の三連覇は、恐らく無いだろうと私は確かなる確信を抱いていた。その要因は、一点目は、四年前と比べれば、現役日本人メジャーリーガーが一人も参加していないことである。勿論、当時、日本野球界に在籍していた選手でも現在は、メジャーに移籍してしまった人も数多くいる。具体的に挙げれば、投手陣では、松坂、ダルビッシュ、岩隈、藤川、野手陣では、イチロー、青木、中島、福留(現在、阪神)、西岡(現在、阪神)、川崎などが今回は、挙って不在のため大きく戦力全体が低下していることは一目瞭然だった。同時に第二回WBCで日本の指令塔として活躍したキャッチャー城島に至っては、既に引退してしまっていることも非常に大きい。二点目は、代表監督の山本浩二氏も現役の監督を離れて久しいということである。戦況を分析する観察力、試合感覚や勝負所の判断力が鈍くなっている点については誰が見ても明らかであろう。また、戦力全体が低下していることについては、WBC代表に選ばれた選手たちが一番、よく分かっているはずである。特にチームの中軸となる絶対的な不動の4番打者が不在であることも非常に心許ない。打線というのは、4番打者を軸に機能することは言わずもがなである。これは、今日の日本球界における大きな課題でもある。

 練習試合・壮行試合の中で常に指摘される点は、打線が揮わず得点力に欠けることであった。不安要素を多く抱えたまま第1ラウンド、第2ラウンドを通過する過程で、やはり打線の貧打と投手陣の失点は、目立つ。かつて日本投手陣を称賛した表現である「鉄壁の投手陣」には程遠い。田中や前田でさえも本調子とは言えない。何よりプレッシャーによる選手の固さが気になるところだ。しかし、日本の転機となった試合は、第2ラウンドの台湾戦だった。日本は、相手チームに得点を許し、メジャーでも名高い王建民を中々、打ち崩すことが出来ない状態であった。9回表、2アウト、一塁走者・鳥谷でバッターは井端を迎える。鳥谷は、戦況を見極め、二塁への盗塁を成功させる。実に勇気の要る行動である。日本は、誰もが敗けてしまうと諦めかけたその時だった。まるで狙い澄ましたかのような職人技とも言うべきクリーンヒットを井端が放ち、鳥谷が生還して土壇場で同点に追いついたのである。落合監督に見込まれて、井端が何故、中日ドラゴンズのレギュラーをずっと維持してきたかの理由も明確に分かった打席だった。強い精神力、状況を読みながら的確なヒットを量産出来る高いバッティング技術を併せ持っているからに相違ない。これで勢いは、日本に傾くと同時に選手たちが一丸となり、今まであったプレッシャーによる固さが取れて、徐々に本来のプレーが戻ってきたのである。窮地を経験することで、自分を信じて戦う勇気を取り戻したかのように見えた。そして、その後の試合も好調で第2ラウンドは見事、第1位通過を果たした。あと二勝すれば三連覇が達成されると国民の胸に大きな期待が芽生え始めたことであろう。しかし、実際、海を越えて敵地のアメリカに渡ってから状況が一変した。選手たちにまた、例の固さや緊張の色が窺えた。勿論、三連覇を達成すること、敗けたら全て終わることへのプレッシャーはあるが、何よりも慣れない異国の土地柄、更にプエルトリコ戦の予定されているサンフランシスコ・ジャイアンツのホームグラウンドである「AT&Tパーク」が予想以上にプレーし難いグラウンドであったことがきっと多くの選手達に大きな不安を抱かせたはずである。これは、浜風の風向きや特異形状のフェンスへのボールの跳ね返りが今まで日本では全く経験したことが無いようなものであったからであろう。運命の日、日本は激しい緊迫感の中でプエルトリコ戦に臨んだ。先発・前田は、序盤、崩れかけて失点を許すも見事、立て直し素晴らしい好投を見せた。しかし、二番手の好調と太鼓判を押されていた能見が打ち込まれる。一方、日本は、何度も得点のチャンスを作るが、相手投手を打ち崩すまでには至らない。また、打ち気にはやる場面が幾度もあり、所謂、悪球に手を出している。試合を決定付けた8回裏、鳥谷は鮮やかに長打を放つ。優れた選球眼によって狙った球を確実に捉える技術が、彼の比較的に小柄で力負けしているハンデをカバーしている。井端も燻し銀のような巧みなクリーンヒットを放ち鳥谷が生還する。内川もヒットで続き、ランナーは、一塁・内川、二塁・井端の場面で4番・阿部を迎える。ここで問題となった内川選手の走塁ミスが発生して日本は、これ以上、追加得点出来ず1点止まりに終わった。そのまま9回を迎えプエルトリコに敗れ、三連覇の夢は、儚く散っていったのだった。

  プエルトリコ戦の敗因は、8回裏の走塁ミスにあることは誰の目からも明らかであろう。但し、1アウト、ランナー1塁・2塁、バッターは4番の阿部である。野球のセオリー(理論)から言えば走る場面では決してない。ところが山本浩二監督のサインは、「ダブルスチールしても良い」というサインだったそうである。これは、「隙あらばダブルスチールすることを許可する」という意味であり、その判断を選手に委ねた形である。ここで一塁の内川と二塁の井端との間に何か共通の認識の出来る意思疎通がなされていないとするならば、これは明らかに山本浩二監督の采配ミスである。何故ならば、「ダブルスチールしても良い」とあくまで選手に委ねた形であるが故にこの二人の走者間に共通認識の意思疎通がなされていないとすれば、両者は全く違った考えの下で行動するからに他ならない。では、一体、何故、山本浩二監督は、この場面で「隙あらばダブルスチールすることを許可する」というサインを出したのであろうか。これは、恐らく台湾戦の時と同様に考えて大きな賭けに出たのではないだろうか。つまり、台湾戦は9回表、2アウト、一塁・鳥谷でバッターは井端を迎えた場面で、鳥谷が状況を読み二塁盗塁を成功させたことで、井端がクリーンヒットを打ち、起死回生の同点になった時の残像が山本浩二監督の脳裏に焼き付いて同じような展開になることを考えたはずである。確かにダブルスチールが成功すれば二塁・三塁となり、阿部の長打で同点と考えられなくはない。しかし、プエルトリコ戦のあの場面は、台湾戦の時とは状況は全く違う。まず、プエルトリコと台湾では、比べものにならないほどプエルトリコのほうが強い。更にキャッチャーは、メジャーでも有数の名捕手・モリーナである。もっと慎重に行かなければならない場面である。何よりあの場面で走ることはリスクが大き過ぎる。更に言えば、台湾戦は田中の起用方法を間違えた監督・コーチ陣を井端と鳥谷が救った奇跡の勝利と言っても過言ではない。

 今回の日本の敗戦を総括するならば、4年前に比べて、戦力全体が低下傾向にあるために投手陣が得点を多く取られていること、打線の得点力不足が主な原因である。更に先述したように山本浩二監督による采配ミスで敗戦が決定的となった。しかしながら、采配ミスは、何もプエルトリコ戦の時だけではなかった。先にもあったが、台湾戦の田中投手が失点した時も投手交代の機を読み間違えている。その他にも細かな采配の瑕疵は、何個かありそうだが、いずれも選手の頑張りで山本浩二監督は、何度も救われているはずである。これ以外の敗因として敢えて挙げるのならば投手の起用方法もどこか不自然である。とりわけ、何故、一番、実績のある杉内、内海の出番があのように少なかったのかも未だに疑問であると同時に腑に落ちない。一体、彼らのプライドや面子は如何になるのだろうか。これは、山本浩二監督のみならず、東尾投手コーチなどにも関わってくる問題であろう。また、投手の人選的な根底から言えば、パリーグ、セリーグの投手の比率が6:4の割合で選ばれており実に偏った人選を行っている。

 日本は、今回のWBCは、確かに敗退はした。しかし、一方で思わず目頭が熱くなるような場面が幾度となくあった。敗退したその先に我々がみたものは、それぞれの選手の野球人として確固とした生き様だった。井端選手が何度も窮地でクリーンヒットを打つ姿。そこには愛する妻の支えがあった。内川選手は、人一倍、情熱を持って日の丸を背負い臨んで、奮闘の末に流した涙。そこには紛れもない野球人としての誇りと責任感の強さを感じた。前田投手の負けん気と根性で投じた気迫溢れる投球。そこには、日本の意地を見た。中田選手は、豪快にバットを力の限り振り抜く姿があった。今は未だ力負けをしているが、近い将来、日本の4番となる片鱗を見た。このように厳しい戦いの中で、侍JAPANの戦う姿は、どんなに辛く苦しい状況においても共に助け合い、自分を信じる勇気を持って戦い抜き、決して諦めずに乗り切ろうという気概や心を我々に示してくれた。それは、まさに日本人の古来から受け継がれる精神そのものだった。敗戦したにも拘わらず何だかとても心が温かくなり、大変、感動しているところもある。4年後、WBCの優勝を目指して再び王座を奪還出来るように励んでもらいたい。また、参加選手を始め、多くの日本球界の選手にとって今回の敗戦が大きな明日への糧となり、今後、益々、日本野球のレベルを高めていってもらいたいと切に願う次第である。

 

L'âge d'or /円谷尚智